住宅借入金等特別控除(住宅ローン減税)と各種特例による申告誤りで、過剰に減税されていたケースが発覚
- 2018.12.13
- 税制
- 住宅ローン減税, 住宅借入金等特別控除

記事内目次
住宅借入金等特別控除等の適用を誤った申告を、税務署側も見落としていた
この記事を先にざっくりまとめると次のような感じです。
- 所得税の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除と贈与税の住宅取得等資金の贈与の特例の両方を申告している場合の申告誤りが多い、と会計検査院から国税庁に指摘がある
- 国税庁が申告書を再点検したところ、平成25(2013)年分から平成28(2016)年分までの確定申告において、最大で14,500人について是正の必要があると判明
- 申告誤りとなっているケースは3つ存在
- 過剰に控除されている税金は追加納税が必要になる可能性がある
- 平成24(2012)年以前は時効が成立しているため、対象外
この件について報じた新聞記事・国税庁の報道発表
最初に私が目にしたニュースは、Yahoo!ニュースに掲載されたもので、元のソースは毎日新聞の住宅ローン減税で減税しすぎ 追加納税の可能性もという記事でした。
住宅ローン減税(住宅借入金等特別控除)について誤った申告をし、税務署側も見落とした結果、税金を控除されすぎた納税者が2013~16年の4年間で約1万4500人いることが明らかになった。会計検査院の指摘で発覚し、国税庁が11日午後発表する。控除されすぎた税金は、追加納税が必要になる可能性がある。
住宅ローン減税は住宅ローンを利用して自宅を購入した場合などに、年末のローン残高などから計算した金額が所得税から差し引かれる仕組み。
関係者によると、申告ミスで多かったのは、親などから住宅購入資金の贈与を受けた場合、一定の条件を満たせば非課税になる制度と絡んだケースだったという。この制度を利用した場合、所得税から差し引く分の算定基準になる金額が、住宅ローンの残高か、住宅購入価格から親贈与分を差し引いた額のどちらか少ない方になる。しかし、多い方を基に申請した人が多く、誤りを税務署側も確認できていなかったという。
12年以前については時効が成立しており、追加納税の対象にならない。
この記事の公開日時は2018年12月11日12時37分であり、記事中にもあるように同日の午後、国税庁から(特定増改築等)住宅借入金等特別控除等の適用誤りに関するお知らせという発表がありました。
しかし、国税庁の発表内容をそのまま読むだけでは分かり辛いところがあるので、私なりに元の制度の内容などを踏まえて読み解いてみます。
【ケース1】
新築や購入等した家屋を居住の用に供した年分又はその前年分において、その家屋を取得するに当たり贈与を受け、その受贈額について贈与税の住宅取得等資金の贈与の特例の適用を受けた場合で、更に、その家屋について(特定増改築等)住宅借入金等特別控除の適用を受けるときは、(特定増改築等)住宅借入金等特別控除の控除額の計算上、贈与の特例の適用を受けた受贈額を家屋の取得価額等から差し引く必要があるにもかかわらず、誤ってその減算をしていなかったものです。
まず【ケース1】ですが、贈与税の住宅取得等資金の贈与の特例がキーワードになります。
贈与税の住宅取得等資金の贈与の特例
- 贈与税の住宅取得等資金の贈与の特例は、次に掲げるものが該当します。
この特例そのものの説明は省きますが、簡単に書くと「自分が住むための住宅用の家屋」を「新築する、取得する(建売のものを買う)、増改築するための資金」を「自分の父母や祖父母(直系尊属)から贈与してもらう」場合に、その贈与分が非課税になったり、直系尊属が60歳未満でも暦年課税ではなく相続時精算課税を選ぶことができたりする特例です。
住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)
そして、住宅借入金等特別控除は、通常は「住宅ローン控除」や「住宅ローン減税」と呼ばれているもので、税額控除(税額をいったん計算した後の段階で、その税額に対して行う控除)です。この控除が適用される場合、一定の期間は住宅ローン等の年末残高に、一定の割合を掛けた分を、直接的に所得税額から減らすことができます。
タックスアンサーでは、No.1213 住宅を新築又は新築住宅を取得した場合(住宅借入金等特別控除)とNo.1214 中古住宅を取得した場合(住宅借入金等特別控除)とNo.1216 増改築等をした場合(住宅借入金等特別控除)の3つのページがありますが、【ケース1】は「住宅取得等資金の贈与の特例」も関係する=「新築・取得・増改築」なので、No.1213とNo.1216の方を見てみます。
「3 住宅借入金等特別控除の控除期間及び控除額の計算方法」のところに、(注1)と(注2)の2つの注意書きがあります。 (注1)が国や自治体からの補助金などがある場合、(注2)が贈与税の住宅取得等資金の贈与の特例がある場合です。
(注1)の補助金などの金額、(注2)の特例の適用を受けた住宅取得等資金の額を、まず住宅ローン等の年末残高から差し引いてから各年の控除額を計算することとなってます。
小まとめ・実際の計算例
ごちゃごちゃしてきたので一旦整理しましょう。
数段落前で、住宅借入金等特別控除は税額控除だと書きました。税額控除はいったん計算して出てきた税額に対して行う控除ですから、その前の段階である税額の計算で、補助金や特例の適用を受けた資金を考慮して減算しなければなりません。しかし、【ケース1】では、その減算を行わないまま住宅借入金等特別控除を適用して申告してしまったというケースです。
井上寧税理士事務所様の贈与を受けた住宅取得等資金と住宅ローンにより一戸建てを購入。住宅ローン控除と贈与税の非課税は併用できますか?という記事が参考になります。
この例では、家屋の取得対価額が3,000万円、自己名義での借入金が2,500万円となっており、贈与がなければ借入金の2,500万円が住宅ローン控除の計算の基礎額となりますが、実際は贈与を700万円受けており、3,000万円から700万円を引くと、実際に借入れした2,500万円よりも手出しとなる2,200万円の方が小さいため、住宅ローン控除も2,200万円を基礎として計算する、ということです。
毎日新聞の記事中には、所得税から差し引く分の算定基準になる金額が、住宅ローンの残高か、住宅購入価格から親贈与分を差し引いた額のどちらか少ない方になる。しかし、多い方を基に申請した人が多く
とありますが、前の段落に書いた通り少ない方を算定基準にしなければなりません。
【ケース2】
新築や購入等した家屋を居住の用に供した年分及びその前後2年分ずつの計5年分の間に、居住用財産を譲渡した場合などの譲渡所得の課税の特例の適用を受けた場合には、その家屋について(特定増改築等)住宅借入金等特別控除の適用を受けることができないにもかかわらず、(特定増改築等)住宅借入金等特別控除の適用を受けていたものです。
次に【ケース2】ですが、こちらは居住用財産を譲渡した場合などの譲渡所得の課税の特例がキーワードになります。
居住用財産を譲渡した場合などの譲渡所得の課税の特例
- 居住用財産を譲渡した場合などの譲渡所得の課税の特例は、次に掲げるものが該当します。
- 居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(措法第31条の3第1項)
- 居住用財産の譲渡所得の特別控除(措法第35条第1項(同条第3項の規定により適用する場合を除きます。))
- 特定の居住用財産の買換え及び交換の場合の長期譲渡所得の課税の特例(措法第36条の2、措法第36条の5)
- 既成市街地等内にある土地等の中高層耐火建築物等の建設のための買換え及び交換の場合の譲渡所得の課税の特例(措法第37条の5)
- 認定事業用地適正化計画の事業用地の区域内にある土地等の交換等の場合の譲渡所得の課税の特例(旧措法第37条の9の2)
これは私が解説するまでもなく、確定申告書等作成コーナーのよくある質問に、重複適用できない譲渡所得の特例というページがあり、(特定増改築等)住宅借入金等特別控除の適用を受ける場合には、居住の用に供した年とその前後の2年ずつの5年の間に、次の「居住用財産の譲渡所得の課税の特例」などの特例を受けていないことが要件となります
とあります。
新しい家に対して住宅ローン控除を受け、その後に以前の家を譲渡した場合の居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例は?
ちなみに、国税庁が公開している居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例等の適用を受ける場合の修正申告という質疑応答事例では、新しい家に対して住宅ローン控除を受け、その後に以前の家を譲渡した場合の居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例の適用を受ける場合について照会があっています。
この場合、以前の家の譲渡で特例を受けた場合は新しい家の住宅ローン控除は受けられなかったという扱いになり、修正申告書又は期限後申告書を提出して住宅ローン控除相当額を納付する必要があるとされています。
ニュース記事や国税庁の発表には書かれていないので推測ではありますが、「先に古い家を売って資金を確保し、その際に譲渡所得の特別控除の特例を受けていたのに、新しい家に対しても住宅ローン控除を受けてしまった」ケースよりも、「新しい家に対して住宅ローン控除を受けた後に、古い家を売った譲渡所得の特別控除の特例を受けてしまい、住宅ローン控除が無効となったが修正申告・期限後申告をしなかった」ケースの方が多いのではと思います。
【ケース3】
直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税の特例については、その適用を受ける年分の所得税の合計所得金額が2,000万円超である納税者は、その適用を受けることができないにもかかわらず、誤って適用を受けていたものです。
最後に【ケース3】ですが、こちらは直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税の特例がキーワードになります。
【ケース1】で「贈与税の住宅取得等資金の贈与の特例」があり、そのうちの1つにNo.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税がありました。
「3 受贈者の要件」のところに、(3) 贈与を受けた年の年分の所得税に係る合計所得金額が2,000万円以下であること
とあり、【ケース1】や【ケース2】に比べると、税務署員が見落としてしまうとは思いにくいポイントでは……?と思うのですが。
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